第10章 馬鹿じゃないの
「大丈夫よ、眠ってるだけだから」
「……本当にすんませんした」
ぼんやりとした意識のなか。
聞こえてきたのは人の声。
ひとりは保健室の先生で、あとは、誰だろう。男子ってことくらいしか分かんねえや。
「これだからサッカー部は! 木兎はうちの大事なエースなんですよ!? 大会を控えてるこの時期に……全く、どうしてくれるんですか!!!」
「誠に申し訳ございません……!」
こっちは監督か。
すげえ怒ってる。
つーことは、ああ、なるほど。
いつも中庭で遊んでる奴らのサッカーボールが飛んできて、窓ガラスがふっとんだのか。
んで、俺を直撃。
情けねえなあ。
普段なら余裕で避けられんのに。
「親御さんにご連絡は──」
「たしか二年に妹さんが──」
先生や監督の話は延々つづく。
かおりの名前が何回か出て、その響きを聞くたびに、会いたいような、会いたくねえような。
もやもやした気持ちが胸のなかで渦巻いて、それがすっげえ、苦しくて。
痛みから逃げるようにして、固い布団に頭まで潜りこむ。そのまま、眠りのなかで再度意識を手放した。