第9章 付き合ってみる
「お前さ、赤葦の言うことにも一理あるって、本当は分かってんだろ」
「………っ!」
「図星か。なら尚更だな」
左肩に先輩の体重がかかる。空いたほうの彼の手が、私の頬を鷲掴みにする。
背けていた顔が無理やり正面に戻されて、先輩の視線に縫いつけられた。
目を逸らしたら許さない。
彼の三白眼が、そう釘を刺す。
「お前の兄貴はすげえよ。そんなすげえ兄貴に、一体、どれだけの選手が憧れてるか」
お前は知ってんのか?
「お前の兄貴が背負ってるもんを、全国区で戦う強豪校の主将が、どれだけのもんを背負ってるのか」
お前、分かってんの?
「好き合うのはお前ら兄妹の勝手だよ。俺は止めねえし、むしろ応援だってしてやるよ」
ただ、それは今じゃない。
「わかるよな? 兄貴を、木兎って選手を、一番近くで見てきたお前なら」
あいつが今、あいつのバレー人生にとって今が、どれだけ大事な時期か。
黒尾先輩はそこで言葉を切って、それからゆっくりと、深くて長い溜息をついた。