第9章 付き合ってみる
「……って、まあ、ちょっと熱くなりすぎたわ。悪いな」
「………いえ」
「でもどれも本音だよ。お前らの仲を応援してやりてえのも、ホント」
あとはお前が決めることだから。
先輩はやけに優しい声音でそう言って、それ以上、何も言わなかった。
重い 重い
そんな、沈黙。
うつむいて見つめるのは、情けなく震える自分の手。まん丸の雫。ぱたぱたと落ちていく。
『俺に寄越せェェェ!!』
思い出すのは大好きな。どうしようもないくらい大好きな、光太郎の、お兄ちゃんの背中。
そうだ。そうだった。
私は彼に、木兎光太郎というひとりの未来あるバレー選手に。
その背中に、恋をしたんだ。
「……全部、わたしのせい」
赤葦が言うことは、正しい。
『お前さえいなければ』
「私さえいなければ」
『あの人はもっと上に』
「お兄ちゃんはもっと上に」
──とっくに分かってたのにね。
「黒尾センパイ……兄は、」
私があなたと付き合ったら兄は。
「私を嫌いになってくれますかね」
付き合ってみる___fin.