第8章 悪いことしましょ
まんまと引っかけられてバレてしまった、兄と私のこと。
兄妹で好き合ってる。
でも、それを知っても、黒尾先輩は嫌な顔ひとつ見せないで笑っていた。
「すげえなァ、ドラマみてえ」
「……茶化さないで下さいよ」
「バーカ褒めてんだよ。いいと思うぜ、そういうの。俺はむしろ憧れちゃうわ」
どこまでが本心なんだろ。
分からない。この人、笑ってるけどほとんど無感情に見えるから。
黒尾先輩の真意が読めなくて、ひとり悶々と俯く。すると、どこからともなく男性の声が聞こえてきた。
「あ、お姉さんお姉さん!
ちょっと道聞いてもいい?」
明らかに道を尋ねるようなテンションではない声色。見るからにチャラそうな、スーツにジャンパー姿の男が行く手を塞いでいる。
これ、風俗店のキャッチだ。
「……急いでるので」
低く言って通り過ぎようとした。
しかし、男はしつこく付いてきて離れようとしない。
「冷たくしないでよお~」
段々男との距離が近くなる。
いやだな、こういうの。
そう思った矢先だった。