第8章 悪いことしましょ
彼に連れていかれた先は、駅ビルに入ったカフェチェーン店だった。
背の低いソファ席に沈むように腰かけて、コーヒーを挟んで座る。
「ちっとは落ちついたか?」
大きめのカップに入った無糖のラテに口をつけて、不機嫌に舌先を出す黒尾先輩。猫舌なのだろうか。
対する私は、両手で包みこんだマキアートに視線を落として、コクリと頭を垂れた。
「何があったの、とか、
聞くつもりはねえけどさ」
「………」
「お前、このあと暇?」
「……へ?」
豆鉄砲を食った鳩。
そんな言葉がぴったりの顔をしてしまったと思う。
なんでこのタイミングでそんなことを聞くのか。ちっとも分からない。
先輩は、尚もしれっとした顔で「暇だったら遊ぼうぜ」などと言っている。
そんな彼を見つめること数秒。
何も答えない私を見て、先輩は、ため息がちに頬杖をついた。
「帰りたくないんだろ?
木兎、あー……兄貴のとこ」