第8章 悪いことしましょ
ドンッ
なにか固いものに当たる衝撃。
右肩が後方に弾かれて、持っていたバッグが逆さまに落ちていく。
スマホ、財布、ポーチ。
次々と中身が溢れて、コンクリート製の通りにそれらが散らばった。
誰かにぶつかったんだろうけど、謝ろうと振り向いたときには、もうそこには誰もいなくて。
「……あーあ」
道行く人からチクチクとした視線。
うわ、かわいそう。
そんな声すら聞こえてきて、悔しいやら、恥ずかしいやら。余計に涙が溢れてくる。
レギンスが伝染するとか。
服が汚れちゃうかもとか。
そんなの、もうどうでもいい。
崩れ落ちるようにして膝をつく。真下を向いて、バッグの中身を拾い集める。せめて、惨めに崩れたマスカラが、誰にもバレませんように。
お気に入りのケースに傷が付いてしまったスマホ。それを取ろうと手を伸ばした、そのときだった。
「大丈夫?」
私より、ほんの少しだけ早く、スマホを拾った大きくて筋張った手。
顔をあげると、そこには見覚えのある男が立っていた。