第6章 こころの境界線
『俺さ、好きな奴がいるんだ』
世界がひっくり返ったような、そんな気がした。
木兎さんは、いい意味でバレー馬鹿だ。興味こそ人並みに示してはいたけれど、恋愛の類は意識的に避けているんだと、そう思ってた。
だが、それはとんだ勘違い。
移動教室で忘れものをして、たまたま通りかかった校舎西端の科学準備室前。
好きな奴がいるんだ。
俯く女子生徒にそう告げた木兎さんは、見たこともないくらい、優しい優しい顔をしていた。
──俺は、彼があの顔をする瞬間を
それこそ、何度も見たことがあった。
家族だからだと思ってた。
たったひとりの妹だから。
だからあんな風に、彼女にだけは愛に満ちた笑みを見せるのだ。
そう思い込んでいた。けど。
木兎さんの家庭環境なんて、俺なんかが知ってるはずもない。ある日のロッカールームで木葉先輩に聞いてみたら、見事に予感が的中してしまったのだ。
『ああ、木兎な……あいつんとこ、親が再婚してるらしくてさ』
何かが、ぐにゃりと歪んだ。