第6章 こころの境界線
そうだな。例えばこんな風に、水にたゆたう、ただそれだけの存在に。クラゲになれたらいいのに。
「めざ、わり……?」
今にも泣き出してしまいそうな声。
いかにもか弱いです、って感じの、細くて震えた声。
あの人の妹なら、こんなことくらいでメソメソ泣くなよ。
そう言ってしまいそうになって、やっぱりもっと酷いことを言ってやりたくなったから、口を噤んで水クラゲを見やった。
ふわり、ふわり
互いに絶妙な距離感を維持しつつ泳ぐクラゲ。
それはまるで自分と、彼。
俺と木兎さんのようだと、割りと本気でそう考えて、我ながらに気持ち悪いと思った。
ひとつ学年がちがう。
ただ、それだけなのに。
俺は彼には届かない。セッターとして、副主将として、隣にいることはできても友人にはなれない。
別にそんなやわな関係になりたいワケでもないけれど。それでも、憧れたことはある。
自分の性格がこうだから。
俺たちは歳がちがうから。
諦めるだけの理由は探せばいくらでもあるし、このままでいいって、最近まではそう思ってた。
確かに思ってた、のに。