第6章 こころの境界線
不毛な時間が過ぎていく。
そんななか、どうやら痺れを切らしたらしい彼女は、意を決した様子で話しはじめた。
「……あの!赤葦、くん」
「なに」
「う、えっと……その、
なんでこんなことするの」
まあ無理もないと思う。
入学してから二年間、ほぼ喋ったこともなかった。木兎さんと同じバレー部の、ちょっと変わった男子生徒。
大体そんな風に思ってたんだろう。
そんな俺と、こうして出かけてるのだから。訝ったり不安がったりするのは当然だ。
「……教えてほしい?」
木兎さんの持つそれとはまるで違う。似ても似つかない、黒々として日本人らしい瞳。
怯えたようにも見えるその目を覗きこんで、俺は、ゆっくりとこう告げた。
「目障りなんだよね、アンタ」
凍りつく木兎さんの妹。
ああ、驚いたときの口元は少しお兄さんに似てる、かな。
まったく忌々しい。
硬直する彼女からフイ、と視線を逸らして、クラゲの水槽を眺める。