第6章 こころの境界線
これは謂わば利益相反だ。
なるべく簡潔に伝えるためにデートなんて言葉を使ったのだが、そこに恋や、ましてや愛なんてモノは存在しない。
誘いだした相手。
木兎さんの妹に、あることを伝えたいだけ。
「待った?」
「う、ううん!今来たところ!」
安いラブストーリーのような、ベタで気味の悪いやりとり。
水族館を選んだことに特別な理由なんてない。ただちょっと、俺が、クラゲを見たかった。
ただそれだけで選んだ。
余計なことは何も考えず、チケットを買って、薄暗い館内を進む。ほとんど会話はない。
時折、木兎さんの妹が気を遣ったようにして「……これ綺麗だね」だなんて、どうでもいいことを言ってくるだけだった。