第5章 狂いだす
「スマホ」
兄の一言で、意識が現在に引き戻される。低く尖った声音の彼をおずおず見上げると、その骨張った手には、私のスマホが握られていた。
「リビングに忘れてったろ」
しまった。うかつだった。
いや、別にやましいことは何もしてないワケなので、見られてもいいんだけど。
「な、……中見たの?」
「んなことしねえよ。着信音鳴って、誰かと思ったら赤葦だったの」
なんてこった。赤葦め。
散々脅されて交換した連絡先。電話はしないで、って、あれほど言ったのに。
「…………で?」
「っで、と、申しますと」
「はぐらかすな」
「……っそん、な」
だって、仕方ないじゃない。
今ここで言うの?
お兄ちゃんの大事な後輩に、私の気持ちがバレましたって。あなたが全幅の信頼を寄せる副主将に、私は脅されているんですって。
そんなの。
「……言えない」