第5章 狂いだす
思い起こされるのは、昼休みの非常階段。嘘みたいな本当のできごと。
『木兎さんの妹』
『……こ、今度はなに』
『俺とデートしない?』
兄たちのいる中庭に視線を向けたまま、赤葦京治はとんでもないことを提案した。ちなみに、その意図は未だにちっとも分からない。
『デートしてくれるなら
黙っててあげてもいいよ』
『なっ……黙ってる、って』
『あんたの、好きなひと。
ここで言ったらまずいよね』
やつは確信してる。
私の、兄に対する思いを。
どうしてバレたのか。どこまで知っているのか。驚きと、疑問と、不安がない交ぜになってワケが分からない。
ただ──
『逃げたらバラすから』
赤葦に弱みを握られた。
それだけは確かだった。