第5章 狂いだす
ダンッ……!!!
それはまるで、──そう、まるで少女漫画のような。
「お前……っ俺が、どれだけ
惚れてるか分かってんだろ?」
押し殺した兄の声。
壁と兄の間に挟まれて、おまけに、両手首を頭上に縫いとめられて。
なによ。お兄ちゃんだって。
お兄ちゃんだって、綺麗な人と一緒にお昼食べたりしてたくせに。
──ああ、いやだな。
壁に打ちつけた後頭部が。兄に掴まれた手首が。嫉妬に濁ったこころが。
「………痛いよ。光太郎」
時計の針は重なった。
0:00
「何騒いでんのー?」
母の怪訝そうな声が一階から聞こえてくる。
兄と過ごした優しい時間。
甘い甘い二人だけの秘密。
眩しくて美しいはずだった。
魔法はもう、おしまい。
(狂いだした)___fin.