第2章 プロローグ
どうやら自分の兄弟である刀が出来上がったらしい。
がやがやと周りに報告する自分の生みの父である男の声に耳をすませながら、後に一期一振と呼ばれる彼は歓迎すべき兄弟が生まれたのだと幸せに震えた。
刀の身であるのにやはり家族が増えるということは嬉しいのだ。己とほとんど並行してつくられたその兄弟の命の温かさを確かに感じる。
「ああ、はやくあなたとお話してみたい」
今はまだ自分も兄弟も生まれたばかりで力がなく付喪神として姿を表せないのが憎らしい。きっと今自分に身体があったのなら新しく生まれてきた兄弟を力いっぱいに抱きしめてやれるのに。
「あなたは女でしょうか男でしょうか、何が好きなのでしょうか、どのような性格をしているのでしょうか」
こんなにも興味がつきない。
付喪神としての形をまだ持たない一期一振から見える景色の端っこに光に当たり美しく光る一振りの刀が見える。あれが自分の兄弟なのだと思うと刀にはないばすの胸も弾むというものだ。
「だが残念だ。見るからに立派な刀であるのに本当にこの太刀はあんな名も無き男に譲ってしまうのか」
「この刀は私の自分勝手の思いでつくった刀だ。とても売り物として世に出せるほど私は図太くはないよ」
この会話からまだ話したこともない兄弟との別れが迫っているだろうことは刀である彼にも分かった。それについて生みの父を恨むつもりなどはないが、どうして一緒にいさせてくれないのだろうとは思う。
なにしろ感じるのだ。
話したことも、触れ合ったことも、ましてやちゃんとその姿をうつしたこともないけれど、確かに感じるのだ。
「私の愛しい愛しい兄弟」
きっとまた出会えることを祈って、今はただお前との早すぎる別れを思って胸を痛めることを許して欲しい。