第17章 美瑠ー鬼鮫ー
立ち去りかけて、フと美瑠が振り返る。
まただ。
白い衣。風が吹いて来る。
「さっきのお訊ねですが」
美瑠の笑顔。
「はあ」
ぎこちなくならぬよう、滑稽な程自制している自分。
「人はその心ばせが立ち居振舞いに顕れるものです。私は両親にそう教えられてきましたし、私自身の僅かな経験でもってもそれは間違いではないと思います。その伝で言うと、あなたはきっと、真面目な方です」
美瑠はここで少し首を傾げ、改めてじっと鬼鮫を見た。
「・・・それに、きっと優しい人だと思います」
気持ちや心などという愚にもつかないものが在るとすれば、それが血を噴いた心持ちがした。
美瑠は仲間の方へ戻って行く。何心無く、鬼鮫に背を向けて。
美瑠を殺すのは簡単だった。
物理的に生きたモノの営みを断ち切るのは難しい事ではない。美瑠によれば、鬼鮫はその技に長けてもいる。
簡単だった。
更に任務とあれば、鬼鮫の仲間殺しは面目躍如とさえなる。
混濁した目で鬼鮫を見、美瑠は何故かと問うた。
幾人もの血がむせ返るように臭う中でさえ、美瑠は清々と香っていた。
任務。
また、私の希み。
胸のうちに答えを落とし、鬼鮫は美瑠の傍らに屈んだ。
しかし美瑠は鬼鮫のモノにはならない。
任務で殺した美瑠は犠牲者であって、鬼鮫の得物にはなり得ないのだ。
白い布に血の赤はさぞ映えるだろうと思っていた。期待は裏切られて傷みだけが遺った。
鬼鮫は美瑠を汚してしまった。二度と会えないこの好ましい女を。
風はもう吹かない。