第47章 晩夏の用心棒ーイタチ、鬼鮫、飛段ー
耳を放されてほっとしたのも束の間、今度は首がもげそうな勢いで振り向かされた牡蠣殻は、胡乱に笑う鬼鮫を目の前に見とめて瞠目した。
「何が違うんです?」
その牡蠣殻の頬を目を開けろとばかりに鬼鮫がつねる。
「…違うとか違わないとかじゃなくて、変に誤解されたくないなと…痛いですよ、干柿さん」
頬をつねる指に力が入る。痛い痛い痛い。
「何の誤解ですか?事実ですよ」
「あのですね。そういう内輪の話はあまり大っぴらにしない方がよろしいかと思うのです。ね。自分の常識が他人様の非常識なんてよくある話です。増して貴方の常識ときた日には傍目に全く異常ですから」
「傍目にどうであろうとそれが何か?いずれにせよ私の言ったことに誤解されるようなものはありませんがね」
「わかりました。確かに御尤もです」
「御尤もなんですかい?」
とは言えと二の句を継ぎたい牡蠣殻を遮り、要が曰く言い難い顔をして鬼鮫と牡蠣殻を見較べる。
鬼鮫と牡蠣殻がそれぞれ物言いたげに要を見遣った。要は改めて2人を見較べ、生唾を呑んでどちらとも目を合わさぬよう斜め上に目線を投げた。
「えーと、…アンタら、どういう関係?」
おずおずと言った要を鬼鮫が恐ろしく威圧的に睥睨した。
「どう見えます?」
「いや…あの、わかんねぇから聞いてんですがね」
「知る必要がありますか?あなたに何の関係があるんです?」
返す刀で取り付く島もない鬼鮫。牡蠣殻が額をひと撫でして溜め息を吐く。干柿節が炸裂している。
「あー…。そんならどう見えるなんて聞かねぇで欲しいなぁ…」
理不尽な鬼鮫に要は遠慮がちに呆れ顔をして咳払いした。
「あのですね。俺ァ一応この人の雇い主なんで、えー…、まあ、ちょっとくらい雇った相手のことも知っといたらいいんじゃねぇかな…とか…思って…」
「雇い主?」
右の眉だけ器用に吊り上げ、鬼鮫は要と牡蠣殻を交互に眺め渡した。
「成る程。雇い主ですか」
鬼鮫の声が一段低くなり、要の腰が三段退いた。
「何で怒るんスか?あ、もしかしてアンタ、この人のご主人様?」
「…ほう。ご主人様ですか」
鬼鮫が口元を立ち襟に隠すように俯いた。
「ご主人様ねえ…」
笑ってやがる、干柿鬼鮫。
牡蠣殻の眉間に深い皺がよる。
「だそうですよ?どうなんです?牡蠣殻さん?」
