第13章 何故だか自然と甘くなるー鬼鮫ー
「自然な事なんですよ?何故嫌うんです。痒い?何故です?私はこうしているのが嫌いではありませんよ。あなたを痛め付けるのと同じくらい気が高ぶる」
「何ですかソレは。あんまり嬉しくないですねえ・・・」
「いいんですよ。あなたを嬉しがらせようと言っている訳じゃない。正直言ってるだけですから」
「成る程。それはわかります。私も貴方を喜ばせたくて恋しがっている訳ではないですから。それと同じですね、きっと」
「まあそうですね」
「それにしても話しにくい・・・自分で仕掛けたとはいえ、あまり会話に適した格好じゃありませんねえ、これは」
鬼鮫の膝の上で額と額を重ねたまま、牡蠣殻は及び腰でモゾモゾと落ち着きない。
「なら話すのは止めますか」
「はい。甘酒が呑みたい。折角の燗が冷めます」
「・・・・・あなたという人は何処までも・・・」
「お酒と煙草と本と干柿さんが好きですよ。ええ、何処までも」
「ああ、そうですね。あなたは憚りなくそういう人ですね。フ。煙草臭いキスは初めてですよ」
「はは。不味かったでしょう」
「いえ?思いの外甘いものでしたよ?」
牡蠣殻の顎を持ち上げ、抵抗させる間髪を置かずに鬼鮫がまた唇を重ねる。
「ぐ・・」
先程の塞ぐだけのものと違い、今度の口吻は探るような深いもので、牡蠣殻は息を詰まらせて身を退いた。
「・・・ぅぶ・・・・ひょっとほひがきはん・・・ッ、ぅう・・・、ひゃめ、ひゃめてくだはい・・・ッ。ぅべッ」
「・・・・・く・・・キスしながら強引に話す人も初めてですよ。本当に何なんですか、あなたは」
「いや、私にはまだこういう事は早い・・・」
「いい大人が何言ってるんです。一度やる事をやってるでしょう?大体まだ早いってあなた、しわくちゃになってからノリノリで迫られても困りますよ?私にも事情がある」
「タイミングって難しいですねえ・・・」
「・・・本気ですか、あなた」
「こういうのは自然に任せるモノなんじゃありませんか?」
「不自然ですか?この状況でこの流れが?大体あなたのいう自然に任せていたら通好みにも程がある目合いになってしまいますよ。私はスタンダードに順を追ってその境地に辿り着きたいですねえ」
「何十年こんな事やり続ける気なんですか。お好きですねえ・・・」
「・・・相変わらず腹立たしい事言いますね。あなたは厭なんですか?私に触れるのが?」