第46章 杪冬の折り、埒も無く。
いつかなんてものが必ずじゃないのはわかっているのに。思うこと全てが満たされるのを待っていても叶わないのを知っているのに。
手を繋いで歩きたいな。
意気地無しで臆病な私は、今日も手持ち無沙汰な手元を見、丈高い後ろ姿を眺めて思う。
だけど幸せだな。
凄く幸せだな。
何て幸せなんだろう。
澄んで底抜けに突き抜けた冬の青い空を見上げると、吹いた湯気のような白い雲の下、くの字を描いた雁の群れが鳴きながら行く。渡り鳥の帰る時季になった。春が来る。
気付けばまた足が鈍って、少し離れたところからこっちを見ているあの人がいる。
長い両の手を脇に垂らし、足を広い肩の幅に開いて立つ見慣れた姿。黒地に紅い雲の飛ぶ外套が、冷たい風に吹かれて裾を遊ばせている。
淡々とした目が物言いたげに私を見ている。
急にびっくりするくらい嬉しくなって、踏み出した足がそのまま駆け出す。
ああ、このまま飛び付いて、手を繋いで歩きたいと言ってみようかな。
今日はそうしてみようかな。
いつかを今日にしてみようかな。
そうしようと思えば、いつかは今になるだろう。
止まらない足に任せて走りながら、変な気分になる。擽ったいような鬱陶しいような。
どんな反応をされるだろう。
ちょっとびっくりした顔をして、きっと嫌味を言われるな。
だけど多分、あの人はこの手を振り払ったりはしないだろう。
そんな風に思えるなんて。
幸せだな。
凄く幸せだな。
何て幸せなんだろう。