第10章 雪合戦ーサソリ、飛段、デイダラ、小南ー
「・・・ああ、いい具合にぶっ壊れた飛段さんでしたか・・・・成る程ね・・・」
「テメエ、ぐらァ、このバカイモ裾!!!オメエは本気でオイラを死なす気か!?この真冬に花畑見ちまったじゃねえか、バカタレ!!!溝みてえな三途の川で色黒の鬼が洗濯してたぞ、オイィ!!!」
暁の黒い衣装に粉が吹いたような雪をへばりつけたデイダラが、凍りかけた髷を揺らしてグイグイと雪を漕いで現れた。
唇がちびまる子の藤木色に染まって痛々しい。
「オメーそりゃーインドだべ?」
窓辺りに手をついて、藻裾が呆れたように答えた。牡蠣殻もその傍らに立って眼鏡のツルを持ち上げて、しげしげとデイダラを見る。
「ガンジス河ですかね?」
「臨死体験するとこを幽体離脱なんかしやがって、挙げ句に海外旅行ですか?空気読めってんですよ、ドデンダラはよ」
「バカヤロウ!そんな予定調和があるかよ!何でオイラが命懸けでイモの期待に答えなきゃねんだ?うん?」
「イモじゃねえ!!イモ裾だ!!!・・・アン?」
「あーあー言っちゃったよ、自分でよ。よォし、今日からオメエは立派なイモ裾だ。藻裾なんて名前は捨てちまえ。オイラが粉々にぶっ飛ばしてごみの日に出しといてやっからよ。な、イモすあが・・・ッ!テ、テメエ、ぅわっつゥ~、辞書なんか投げやがって、ちぃいィー、反則だぞ、チクショウ!!!」
「辞書・・・?あ、ああーッ!!!たと・・・た、た、たとへづくし!?何てもの投げてんですか!!!」
雪に埋まりかかった本を見て、牡蠣殻が血相を変えて窓を飛び越して表へ出た。
「汐田さん!!!」
大事な本から雪を払いのけながら、牡蠣殻は肩を震わせた。
「クックックッ。待ってたぞ、バ牡蠣殻・・・」
「・・・・・・・・」
このフレーズで牡蠣殻を呼ぶ人間は一人しかいない。
牡蠣殻はダラリと両手を下げて、心底厭そうな顔で振り向いた。
「・・・何やってんですか?」
サソリである。ヒルコを装着している。
「見りゃわかんだろ、雪合戦だ」
牡蠣殻の目は飽くまで冷たい。ヒルコを上から下まで眺め渡し、長い溜め息を吐く。
「・・・何でヒルコに収まりかえってんですか、アンタは。薄汚い大人ですねえ・・・・。出なさいよ。いい歳をして恥を知りなさい、恥を」
「うるせえな。こらオレの防寒具だ。ゴチャゴチャ言うんじゃねえよ、バカ」