第8章 お守りー我愛羅ー
「・・・・・・好きだよ。・・・・・・あっちは僕が好きじゃないみたいだけど」
我愛羅は悄然と答えた。
「あら、どうしてでしょうね。我愛羅さんはこんなに可愛らしくて素直なお子なのに」
叔母は悲しげな我愛羅の様子に顔を巡らせて、また微笑んだ。
我愛羅は胸がキュッと音を立てた様な気がした。膝に抱きついて、白い顔を眺めながら話をしたくなった。他の子達がお母さんにしている様に。
「私は我愛羅さんが好きですよ。ふふ。もし我愛羅さんが私を嫌いでもね?」
叔母が手を延べて我愛羅の頭を撫ぜた。
「人の心は目に見えないもの。そして移ろうもの。あなたは他の人より荷物が多いから大変でしょうね」
我愛羅は大きな目を見張って叔母を見返す。難しい。大人に話すように話されている。でも、わかる。
「見えないものや移ろうものに囲まれてるのは気骨が折れるますね。でも、大事なものがはっきりしていれば、大丈夫ですよ。気持ちのお守りって大切なもの」
阿修理は穏やかだが寡黙な職人肌の男で、我愛羅はあまり口を聞いた覚えがない。
会うと目尻に皺をよせて笑い、大きな手で二の腕をポンポンと叩くのが阿修理の挨拶だ。いつも黙って何か造ったり修理したりしている。それはまるで手妻のようで、見れば必ず目を奪われた。
テマリとカンクロウと三人で、黙って延々とそれを見ていた事がある。いつもは我愛羅と距離を置く二人と肩を寄せ会うように阿修理の仕事を眺めたのは、我愛羅にはじんわりと胸が温まる思い出になった。
「・・・・・おばさんのお守りは阿修理おじさん?」
ためらいがちに聞いた我愛羅に、叔母は花が咲いたような笑顔を見せた。
「そうですよ。私のお守りはあなたの手先の器用な、無口なおじさん。我愛羅さんのお守りは?」
「・・・・僕のお守りは・・・・夜叉丸・・・・」
「ふふ。もう一人のおじさんですね。我愛羅さんはあの方がお好きなのね」
「・・・・うん。・・・・大好き・・・・」
「素敵なお守りね」
「・・・・・うん・・・・・あの、おばさん?」
「はい?何ですか?」
「・・・・・おばさんは、これからお守りをどうするの・・・・?」
「あら、大事なものがはっきりしていれば、例えそれが側になくとも大丈夫なものですよ」
穏やかで晴れやかな表情が、我愛羅の胸に刻み込まれた。