第47章 晩夏の用心棒ーイタチ、鬼鮫、飛段ー
「デケェ声出さねェで下せェよ!小っ恥ずかしい」
「用心棒を依頼した相手が迷子になってちゃ世話ないですよ。小っ恥ずかしいも何もあったもんじゃない。あの人は放っておいたら何をするか分かりませんしね」
「こういうとこに来て起きることなんざ言わずもがなでしょうや」
「あなたの知らない世界もあるのです」
「ここらは俺の縄張り同然でさァ。何せ生まれも育ちもこの湯の里なんですぜ?むしろここァあんたの知らねェ世界ってヤツだ」
「見慣れた世界に紛れ込む恐怖をご存知ない?」
「あ?」
「赤いワンピースの女性とか」
「え…?それは別嬪さんの話?」
「赤いワンピースを着た女性、お好みですか?」
「嫌いじゃねェかな」
「では大阪梅田の泉の広場に行かれるといいですよ。運が良ければ会えるかも知れません」
「中身も知らねェ相手の為に大阪までは行けねェなァ…」
「大丈夫ですよ。会えさえすれば一途にあなたを追い掛ける健気で儚げな女性ですから」
「惚れっぽいってこと?いや、健気で一途なら違うか…。うーん、迷うなー。儚げかー」
「何せ霊的ですからね。儚いことこの上なし。但し暫く噂を聞かないので実情に関しては責任をとれません。自己責任でどうぞ偶然の出会いに乞うご期待」
「おいコラ…」
「尺八様、コトリバコ、両面宿儺」
「じゅ…呪術廻戦…?」
「シャドーピープル、ロバート人形、チュパカブラ」
「ナ…ナガノコロッケ?」
「排水溝から子供に声をかける変態ピエロ、邪神を崇拝する殺人狂」
「へ…ヘーイ、ジョージィ…」
「結構色々ご存知ですね」
「帳場で漫画やDVDの貸し出しやってっから、暇な時にちょいちょい…」
「漫画は兎も角DVDを貸し出すくらいならフリーWiFi設置した方がよくないですか?」
「そうしてェんだけど電波が弱ェんですよ。忌々しい」
「成る程。まあ鄙びているのも売りでしょうからそれも仕方ないですね」
「たまに遊びに来る程度なら鄙びてんのも悪かねェでしょうがね。暮らしてるこっちは不便でしょうがねェ」
「なら取り壊して便利のいいところへ移られては如何でしょう」
「…こっちの頼み事が面倒なのはアンタら見てりゃわかりますがね。話を簡単に片付けようとしねェで貰いてェ」
「宿を取り壊して移住するのは簡単なことですか?」
