第47章 晩夏の用心棒ーイタチ、鬼鮫、飛段ー
まあそれにしても。
成る程飛段はいいところを突いた。確かにただこの雛びた宿を宿場一の宿にしたいなどという野心に要は縁遠いように見える。他に何かあるのだろう。出来ればあまり言いたくない何かが。
牡蠣殻は首を捻って要を見た。
要が飛段を押し返しながら牡蠣殻の視線に気付いて不思議そうな顔をする。
「何です?妙な顔で見ねえで下せぇよ」
「妙な顔でしたか?それは失礼しました」
面倒くさいなあ…。
牡蠣殻は目を柳の葉のように細めて笑うと、内心盛大なため息を吐いた。
この宿を宿場一にするのは無理だ。
宿場の宿は各々の役割を持ってヒエラルキーを保っている。この均衡は崩れないし、崩れたとすればそこから遠からずこの宿場は瓦解するだろう。山に呑まれた廃墟になる。
要にそれがわかっていないとは思えない。要の熱量が明後日の方向を向いているのはそのせいではないだろうか。
ならば要が本当にしたいことは何だろう。
牡蠣殻は飛段を手招きして笑顔を浮かべた。
「まずご飯にしましょう。要さんにここの美味しいものをご馳走して頂きましょうか」