第47章 晩夏の用心棒ーイタチ、鬼鮫、飛段ー
この温泉街は、三から成る組合で構成されている。
土産と流通を担う湯本の組、歓楽を担う吹張の組、奥のどん詰まりで泉質の良さが売りの藤沢の組。
力区分の割合にして、四、五、一。
「一、ですか。それは少々侘びしいですねぇ…」
眉根を寄せてしかめ面、と言って険しい風情でもなく何がなしぼんやりと牡蠣殻は首を傾げた。
この首を傾げる仕草もまた、さも凝りがありましてとやんわり手を添えてみたような、どうにもはっきりしないふわふわした様子。
「侘びしいなんてモンじゃねェでしょ。適当な相槌ャ止して下せェ」
牡蠣殻の前で正座した膝の上に震える拳をギュッと押し付けて、悔しそうに歯軋りするのは力区分でいうところの一、温泉街最弱の藤沢の組の若頭白猿要だ。
藤沢の泉質を裏付けるような白い玉の肌をした、太い眉大きな目に通った鼻筋の所謂美丈夫という風情。
「適当に言ってなんかいませんよ。実際侘びしいと思ってるからそう言うんです。もっと酷く言った方が親身らしいんですかね?一程度のものならなくても同じとか?」
「何だと!?」
どんと二人の間に挟まる卓を叩いた要が拳を震わせて歯を食いしばった。
「…ぅぐッ、…くうぅう…ッ、いだい…ッ」
「…あー…」
拳を両足の間に挟めてもだえる要に、牡蠣殻は眉根を寄せ、上を向き、下を向き、一旦目を閉じてから振り向いた。
「飛段さん、ちょっと代わって貰えますか?氷を貰って来ます」
「あー?何ィ?俺ァ忙しんだよォ、マジ手が離せねえんだァ」
窓辺に斜め座りして携帯を右に左に動かしていた飛段が舌打ちした。
窓表は秋の月、夏の熱の漸く冷め始めた涼気を虫の音がちりちりと震わせている。
「んーふ、確かにここァレアもんの巣だなァ!角都の言ってた通りだぜ!げっはァ、たまにゃアイツも役に立つことォしやがるなァ!見直したぜェ〜」
「飛段さん、仕事をして下さい、仕事を。取り敢えず私は手を痛めてしまった依頼者の方に氷をお持ちしますから…」
「あァん?手に氷が何だって?もげたかよ?」
「ああ。確かにもげても氷は有要ですね」
「ユーヨーもヨーヨーもねぇだろォ。ンなもなァ舐めときゃくっ付くわ。氷なんか要らねぇよ」
「皆が皆あなたやあなたの相方さんみたような雑で頑丈な作りじゃないんですよ…」
「ふゥん?」