第47章 晩夏の用心棒ーイタチ、鬼鮫、飛段ー
だから二人から何を言っても、私たちは迷惑をおかけした先様の言うことに逆らえません故、今暫く慰安と思って辛抱ください、その分報酬は弾みますとしか言わない。更に暁の出納係からは金を貰うまでは動くなと言い渡されている。
二人の滞在費はバカ息子の里持ち、呑んで食って何なら遊んで、そいつもバカ息子の里持ちとくれば宝くじに当たったようなもの。いい気なもんだ。文句を言う筋合いはないだろう。タダ飯タダ酒タダ団子、黙って怠けて報酬を回収してこい。妬ましくて吐き気がする。当分お前らの顔は見たくない。帰って来るな。
「まあ確かに骨休めにはなってますがね」
眉間に皺したまま、鬼鮫は飽き飽きしたように息を吐いた。
かれこれ半月、取り立てて急ぐ用もないから大人しくして来た。休まり過ぎた骨が腐り始めているような気がする。相応に体を動かし、鍛えていても、無為な時間が多過ぎる。
「もう夏も終わるな」
盆過ぎて心なしその色を変えた日差しに目を眇め、イタチがぽつりと言った。
「詰まらない夏だった···」
「詰まる夏なんかあったことあるんですか?」
イタチが虚ろで胡乱な目で鬼鮫を見る。暑くて投げ遣りでも美男子は美男子。
「睨まないで下さいよ。揉めたくなるじゃないですか」
夏が終わるなんて台詞に腹が立つほど暑い中、鬼鮫は額の汗を拭いて口の端を上げた。
「他所様の恋路に出歯亀したり、餡こに執着した挙げ句リーダーに船で拾われたりしたイタチさんの気の毒なほど仕様もない夏なら私も覚えありますが、まあ私の預かり知らないところでさぞかし詰まりに詰まった夏があったのでしょうね、きっと」
「……」
イタチが表情のない美しい顔を鬼鮫へ向ける。
「なんですか?私にはその端正な顔が怒って無表情だと芯から怖いんだって圧は効きませんよ?贅沢な話ですがあなたの綺麗な顔には見飽きてるんです。全く本当に嫌味なくらい綺麗な顔ですね?削いで欲しいんですか?盗人猛々しい」
鬼鮫は大きく溜め息を吐いた。
「詰まらない夏になってしまったのは私も一緒です。何も遊び回ろうとは思っていませんでしたが、まさかこうも昼夜問わずむっつりしているか弟の思い出話か自慢話を譫言のように繰り返すばかりの壊れたスピーカーみたようなあなたと所在なく暇を囲つことになろうとは…」
「思い出話や自慢話などしていない。事実を話しているだけだ」