第42章 秋の夜長の暇尽くし ー暁ー
「わざわざ表に出なくてもここで構いませんよ、私は。それより百まで生きたかったなんて言って後で化けて出るような面倒をかけないで下さいよ」
「誰が化けて出たりするものか。幽的になるくらいなら鬼か妖怪になってやる」
「あんま変わんねぇぞ、ソレ」
卓に頬をつけてだらっとしていたデイダラが面白くもなさそうに角都を見た。
「詰まんねぇぞー。どうせ下らねえこと言うんならもっと面白ぇこと言えよな。俺ちゃんを笑わせてみろよ。ほら。うん?」
「…俺ちゃん?」
サソリが眉を顰めた。
「オメェまた映画祭りで寝不足か。このクソガキ。餓鬼の分際でR指定のクソヒーローになんざはまってんじゃねぇ」
「そう言う旦那は永遠に十五歳じゃねえか。十九の俺はR指定クリアだけどアンタなんか映画館じゃ門前払いだぞ、うん?」
デイダラは口を尖らせて毒づき、怠げに欠伸をした。
「あーあ。俺もどうせ入んなら暁じゃなくXフォースにしときゃ良かったぜ。でなきゃアベンジャーズかXメン。うん」
「入れるんじゃないですか?アベンジャーズとXメンは兎も角、Xフォースはあなたにぴったりだと思いますよ、デイダラ」
鬼鮫の皮肉にサソリが鼻を鳴らして同意した。
「そうだな。酸のゲロでもかぶってりゃいんだ、こんな阿呆は」
「いーじゃねーか。マーベル面白ぇじゃん。デッドプールサイコーじゃん」
携帯を卓上に投げ出して、飛段が口を挟む。
「シンパシー感じるもんな、デッドプール。カッコいーじゃん。俺みてぇでさぁ」
「…………」
死なない仲間のアメコミヒーローへ半ば自画自讃の賞賛を述べた飛段を全員が黙って見詰め、そして黙って目を逸らした。
「何だよ。急にしんとしやがって」
気付けば表の虫の音もピタリと止んでいる。
「…飛段の戯言の破壊力よ…」
イタチの呟きにサソリがブッと噴いて、俯きながら肩を震わせた。
デイダラが欠伸して、飛段が携帯に目を戻す。角都の算盤がカチカチ鳴り始めて、イタチは茶殻を捨てに立ち上がった。
「…暇ですねえ…」
腕組み足組みして呟いた鬼鮫に角都がちらりと目を走らせ、また算盤を弾き出す。
「秋の夜長だからな」
空の健水を手に戻ったイタチが椅子を引いて頷いた。
「春夏が過ぎて夜が長引き出したばかりだ。体も頭も慣れないまま、夜を持て余しても無理はない。腐るな、鬼鮫」