第42章 秋の夜長の暇尽くし ー暁ー
「知らねえよ。近寄って確かめりゃいいだろ」
「お、成る程ね。了解。あんがとさん」
「うるせぇ。オメェの礼なんか聞きたくもねぇ。気持ち悪ぃ」
「あそ。じゃありがとない………あ、あ、あ、ぁああー!!やら、やらやら、や、やられ……あー!!吊られた!吊られた!吊られたじゃねぇか馬鹿サソリ!優しくねぇじゃん!?嘘ついたなテメエ!」
「……誰が何時嘘ついたってんだ。アホが。俺は確かめろって言っただけだ」
「あ、クソ、待て、あ、イヤ!助けて!助けて!助けてって…オメエは呼んでねえんだよ、出っ歯!あっち行け!どうせ助けてくれんなら女のコ……あ、バカ、出っ歯、後ろ後ろ…!ぶッ、だははははは、やられてやんの!バッカだねー、コイツ!ゲハハハハハッ」
「おい、角都…」
うっそりと胡乱な視線を向けてきたサソリに、角都は首を振って腕組みした。
「知らん。俺に振るな。そいつは飽くまで仕事上の相方だ。課金さえしなきゃ第五でも第六でも好きにすればいい。仕事以外で飛段の面倒を見る気はない。プライベートはキッチリ分けたいタイプなんだ、俺は」
「ホントは寂しん坊のくせに、強がるな角都」
イタチが入れ直したお茶を呑みながらいやに優しい声で言う。角都のこめかみがビキッと音を立てた。
「…おい、鬼鮫」
こめかみをビキビキいわせながら、角都は物騒な目で鬼鮫を見た。鬼鮫がそれを見返してフッと笑う。
「申し訳ありませんがね。私もあなたと同じで公私は別にしたいタイプなんですよ。悪しからず」
「隙さえあればお体に触りたい相方なんだろう。公私混同の仕放題じゃないのか」
「……………触るじゃありません。障るです。馬鹿な年寄りですねえ」
「触るも障るも大した変わりない。良いことも悪いこともお前の口から出た途端、須く悪いものになるからな。そういう底力がお前にはある。自分を見くびるな、鬼鮫。それと俺は馬鹿な年寄りではない。二度と言ったらぶち殺すぞ。俺は馬鹿な相方を持つ善良な年寄りだ。わかったか」
「さあ。よくわかりません」
「馬鹿な鮫だな」
「ほう。その馬鹿な鮫に痛めつけられたいんですか?」
「馬鹿にヤられるような俺だと思うか」
「馬鹿にヤられるというより馬鹿だからヤられるという感じですかね、あなたの場合」
「よしわかった。表に出ろ、鬼鮫」