第41章 暑くて投げ遣り
「単衣に生足の私?そんなもん見たいんですか。つくづく奇特ですねえ、干柿さんは」
「誰がそんなもん見たいと言いました?」
「誰がそんなもん見て貰いたいと言いました?全く、この暑いのに面倒臭い人だな。自分だって年中真っ黒な外套着っぱなしの着た切り雀のくせに何言ってんです。暁には夏服もないんですか。暑苦しい」
「あなたにそんな言われ方をすると、腹立ちを通り越して情けなくなってきますねえ…」
「そうですか。それは申し訳ありませんね。いや、気にしないで下さい?こうは言っていますがこんなもん口だけです。暑くて暑くてもう何もかも全くどうでもよくって、貴方への謝罪もいつも以上に口ばっかりの上っ面なんですから。あー、水に浸かるとか冷凍庫に入るとかして秋までボーッとしていたい。何にもしたくない。暑い暑い暑い暑い!!」
「水に浸かるのは兎も角、冷凍庫に入ったんじゃ秋を待たずに死にますよ、牡蠣殻さん」
「涼しくなったら解凍して下さい。ちゃんと生き返りますから大丈夫です」
「医師の門下に在ったくせに馬鹿なこと平気で言うんですねえ。そんな大雑把なもんならエイリアン3でリプリーもがっかりしないですんでるんですよ。シガーニー・ウェーバーに吹っ飛ばされたいんですか、あなたは」
「マイケル・ビーンはお気の毒でした。それにつけてもリプリーの悪運の強さと生命力は素晴らしいですよね。あんな女性になりたいものです」
「ああ。牡蠣殻さんは映画が始まって二分もしないうちに死にそうなタイプですからね。出落ちを地で行くあなたが彼女に憧れるのも無理はないですよ。人は無い物ねだりの生き物ですから」
「…かく言う干柿さんはさも意味ありげに出て来ながらいつの間にかいなくなって、後にパンフレット読んでみたら実は死んでいましたみたいなやっつけ設定の蛇足キャラタイプですよね。意味ありげで強そうなだけで本筋には全く絡まないという不遇かつ不憫なところが泣けると言うか、笑える」
「……」
「……」
「牡蠣殻さ…」
「失礼なこと言いますね、干柿さん」
「それは私の台詞ですよ」
「いいえ私の台詞です」
「私は本当のことを言っただけです」
「私だって本当のことを言っただけです」
「くどい。削られたいんですか」
「どうせ削るんなら氷にしましょうよ。今日みたいな日に削るなら、断然私より氷ですよ」