第40章 バレンタインという日 ーサスケ、水月、重吾ー
「中でも特にしつこいのがふたりいて……」
「香燐がふたり?勘弁してよ」
水月があー、と、額に手を当てて天井を仰いだ。重吾が苦笑する。
サスケは腕組みで窓辺に窓の桟に腰を預け、首を捻ってなおも研究棟の甘い煙の筋を眺めた。
「……香燐にしろ、そのふたりにしろ、どうも俺には気の強い女に付き纏われる帰来がある…」
「いよいよ香燐がふたり?いや、本人足したら三人か。……大惨事だな」
「…木の葉のあのふたり…」
サスケはフッと笑ったかと思うような息を吐いて、ちょっと顔を俯けた。
「今思えば俺をダシにして喧嘩するのを楽しんでいたのかも知れない」
「仲悪いんだ?そのツートップ」
「悪いが悪くない。泣いたり笑ったり怒ったり喜んだり……。お節介で煩い変な女だ、ふたりとも」
「可愛い?そこ大事だよ、変でも可愛きゃ僕は許す。どう?可愛いの?」
「可愛いかどうかはよくわからない。ふたりとも女らしく花に由来するところがあった。ひとりは生家が花に纏わっていたし、もうひとりは…名前が…」
思い出し思い出し、辿々しく語るサスケは、何時になく力の抜けた隙だらけの様子。
表をぐるりと眺め渡し、腕組みを解いた手を桟に後ろ手につく。
もうすぐ冬も終わる。どんどん時は過ぎて行く。
サスケは瞠目して顎が胸につくほど俯いて物思いした。
バレンタインが過ぎれば桃の節句、ホワイトデー、更に巡って健気に力強い花の時節が来る。
言い争いながら楽しげにつるんでいたふたりの、思わず気を引かれてしまう華やかな賑々しさが思い浮かんだ。
「……そうか…」
あの賑やかさを自分はそう嫌ってはいなかったんだなと思い当たって、サスケは口元を弛めた。眉間の皺が寄る程度には不本意だが、暇を持て余した今のような一時、あのふたりを思い出すのは決して不快なことではなかった。
香燐にもあんな誰かがいればいいだろうに。自分のことにあんなにも一生懸命になるより、思い切り言い合えたりはしゃぎあえる誰かがいた方が、きっと何倍も楽しいに違いない。
そう思った。
「……サスケ。今年はチョコが二個になるかも知れないぞ」
ふと重吾が重苦しげに告げた。重苦しいのに笑いだしそうな声音が気になって表に目を戻す。
香燐と大蛇丸が、楽しげに何やら話しながら居住棟に続く雪の細道を歩いて来るのが見えた。
「…そういう二個か…」