第40章 バレンタインという日 ーサスケ、水月、重吾ー
心配するまでもなく、まあそれらしい相手がいない訳ではないようだ。
ふたりの手にある明るい色味の小さな包みが、真っ白な景色の中でやけに目を引く。
それにしても厭な二個目だ…。
「あはははは、色男は苦労が絶えないねぇ。お気の毒様」
水月の笑い声に顰め面をして、サスケは溜め息を吐いた。
甘いものは嫌いだ。女にも興味はない。
でも、彼女たちと甘いものの作る、一年に一度の空気は嫌いではない。
一足先に春の花を思わせた華やかなあのふたりの思い出が、これからもこの日を彩って行くのだろう。何処へ居ても、誰と居ても、あの時のあのふたりがずっと。
悪い気はしなかった。でも、口が裂けても誰にも言わない。サスケだけの、細やかに温かな思い出。
「断わんのメンドくさそうだなー。逃げちゃえば?サスケ」
「この雪の中何処に逃げるんだ。それとも居住棟でかくれんぼでもするのか?」
「どっちみちすぐ見つかるよ。香燐のヤツ、サスケに関しちゃ象並に鼻が利くからな」
「ぞ…象…?」
「象ってさぁ、犬の二倍も鼻が利くんだよ。ははは、スッゲーよね。犬の二倍だよ?象カッケー」
その象より自分に鼻が利く香燐に追い回される。
今年のバレンタインはまた新しい思い出が補足されそうだ。それがいい思い出になるか、悪い思い出になるかはさっぱりわからないが、春の訪れを予告するこの甘いイベント、やっぱり苦手だとサスケは思った。