第40章 バレンタインという日 ーサスケ、水月、重吾ー
「いや、ちょっと待てよ、サスケ。何が楽しくてこの僕がヤロー相手にお握りなんか振る舞わなきゃないんだよ。いくら再不斬の寝汗や白の垂らす涙に苦しめられたって金輪際しないからな、そんなこと」
「望むところだ!」
「だから望むまでもないから!」
「下らないぞ、ふたりとも!」
「お前が言うな!」
「そうだ!起ち上げたのは重吾じゃないか!」
「じゃあ解散だ!再不斬の寝汗なんか死んでも舐めないぞ、俺は!」
「あー、そうしろよ!大体原材料僕だろ、それは!」
「気持ち悪い!」
「ゾッとする!」
「何だと!勝手な連中だな!」
「………」
「………」
「………」
間が入った。
三人が三人とも、肩で息をつきながら三々五々明後日の方向にそっぽを向き合う。
また窓辺に手をついてムッツリ表を眺めるサスケの肩越しに、水月も表に目をやった。
「大体何でいきなりバレンタインの話なんか始めたんだよ?確かに時期じゃあるけどさ。外に何かあんの?」
「……研究棟から煙が出てる」
「?火事か?」
重吾も窓辺のふたりの側に寄った。
確かに研究棟から細い煙が上がっている。けれど単調に途切れず昇る様子を見れば、重吾のいうような火事ではなさそうだ。
「またカブトが何かやらかしてんのかな」
さして興味もなさそうに言う水月にサスケが首を振る。
「甘い匂いがする」
「甘い匂い?そうか?鼻いいな、サスケ」
「チョコの匂いだ」
サスケは顔を顰めて、けれど何か知らん穏やかな声で答えた。
「あー、香燐か。わざわざ研究棟でチョコ作ってるってわけ?サスケが甘いもん食べないの知っててもやっぱり今年もチョコで攻めたいんだな。邪険にされるだけだってのに、あの諦めの悪さと粘り強さは尊敬に値するね」
呆れ顔で水月が腕組みする。
「一生懸命でいいんじゃないか?」
他人事ゆえの気軽さで重吾が相槌を打つ。
「………」
サスケは研究棟から立ち昇る煙に目を眇めた。
「木の葉の女子も粘り強かった」
「何だよ。モテ話ならお断りだからな」
「僻むな、水月」
「僻んじゃないよ、別に。僕だって里じゃモテないでもなかったしさ」
言い合う水月と重吾を尻目に、サスケは面白がるような、懐かしむような、柔らかでありながら煩わしげな不思議な表情を浮かべて話を続ける。