第40章 バレンタインという日 ーサスケ、水月、重吾ー
「俺は尾形上等兵推しだ」
サスケがポツリと呟き、水月と重吾はぎょっとした。まさかサスケがゴールデンカムイを知っているとは。
アニメ派か?原作派か?
それにしても尾形推し?マジでか。
「俺は何となく、少しだけ奴の心持ちがわからないでもない気がする」
「………」
水月の戸惑って泳いだ視線を重吾が受けた。難しい顔でサスケの後ろ姿を見、もう一度水月と目を合わせ、重吾が口を開きかけたその瞬間、サスケが二の句を吐く。
「とは言えあんな射撃アニアで協調性のない自分勝手なブラコンファザコンマザコン男のことなど到底理解しきれないし、大体俺とは全く気が合わなさそうなタイプだから、万一会わせてやると言われても顔を見るのも声を聞くのも絶対厭だ」
「……あー……(射撃マニアを抜いたら君の自己紹介じゃん…)」
「何だ」
「…サスケ…(大体誰が会わせてやろうって言い出すのさ?)」
「だから何だ」
「そんなんだったら僕だってインカラマッとラッコを食べたい…」
「は?」
「いや、何でもないし(ヤベーヤベー、下半身で話しちゃった)。それよりソレ、推しって言わないから(推しってより同族嫌悪)」
「?じゃあ推しって何だ?」
「少なくても君は尾形推しじゃないぞ。むしろ逆」
「?逆?そうか?推しの逆?…引き…?」
「……引き……。プッ。あはははは、いいね、それ…いだッ!何だよ、重吾!」
笑い出した水月が重吾に小突かれてムッとする。重吾は水月をひと睨みしてから首を捻った。
「推しの逆はアンチ……のような気がするがどうだろう……」
「俺はアンチ尾形?」
「まぁ推しじゃないよね。そもそも何をもってそんなに厭なキャラを推しとか言い出したのか知りたいよ、僕は」
「憎しみが足りないからだ」
「……それネタだよね?ホンキじゃないよね?」
「俺はいつだって本気だ」
「サスケ…。それは流石にお門違いだ。尾形上等兵に鼻で笑われるぞ」
「望むところだ。憎しみが増す」
「あのさ。あんまりそういうコトばっか言ってると、折角綺麗な顔もネタにしか見えなくなるから止めとけよ…。妬ましいってより痛ましくなって来ちゃうじゃん…」
「ネタか…。俺は鰹が好きだ。初鰹でも戻り鰹でも、グルグル回ってくると胸がときめく」