第40章 バレンタインという日 ーサスケ、水月、重吾ー
「で?結局お兄さんの嫌がらせじゃなかったんだろ?」
水月が片方の口の端を上げて嫌味たらしく尋ねれば、サスケは思いの外素直な仕草で頷いた。
「アカデミーの女子の嫌がらせだった」
「……嫌がらせじゃないだろ?折角チョコをくれたってのにこれじゃ、報われないよな。可哀想に」
「好意のチョコだったろうにな」
「全く、サスケの何処がいいんだろな、こんな朴念仁」
「何処がいいのかと聞くならば答えは先ず顔だ。サスケがどういう人間かよく知らない相手にも顔だけは平等に晒されるからな。サスケはイケメンだ」
「いや、重吾。真面目に答えだしちゃってるけど、そんな本気で聞いたんじゃないからね?話の流れっての?奥ゆかしい日本の様式美………」
「それにサスケは頼りになる。実力もある。見た目がよくて力のある雄に惹かれるのは生き物の雌の本能だ。鳥だって雄は強くて見映えがいいのがモテる。少しくらいぶっきら棒でも、何かあればすぐ液体化する顔色の悪い墓場泥棒よりサスケの方がどれだけいいか知れたものではない。男の俺でもそう思うのだから女子から見れば両者の格差たるや正に天国と地獄……」
「…おい。何で途中から僕への個人攻撃になってるんだよ。僕が何をしたって言うんだ。いや、墓場泥棒したけれども。そこは置いといて、ふざけるなよ、ジュゴン」
「重吾だからジュゴンか…。…ふ…。そういうところだぞ、水月」
「喧しい!何さっきからチョロチョロ鶴見中尉の真似してんだよ。読み終わったんなら返せよ、ゴールデンカムイ!」
「もうちょっと待ってくれ。今いいところなんだ。谷垣がサーカスで未だかつてない試練を乗り越えて一回り大きくなるかならないかの瀬戸際……」
「谷垣ニシパの見せ場ならもっと他にいいのがいっぱいあんだろ!?二瓶のおっさんとの絡みとか賢吉とカネ餅の下りとかチカパシやインカラマッとの話とかさ!?」
「ああ…。まあ、あったな。そういうのも…」
「もう返せよ、ゴールデンカムイ!何かお前の読み方に気の合わなさを感じて微妙にストレスだ!もう感想とか要らないから。語ったりするなよ?ボクはお前とゴールデンカムイについて話さないぞ?」
「………水月は鯉登少尉が好きだったな?」
「わーッ、わーッ、話すな!語るな!聞かせるな!黙れ!シャラップ、シャラップだ、重吾!」