第40章 バレンタインという日 ーサスケ、水月、重吾ー
「アカデミーの頃、一日中色んな所からチョコが出て来て、どうしようもなくムカつく日があったな」
窓辺で腕組みして表を眺めていたサスケが、唐突に口を開いた。
晴れた空が白く雪に覆われた雪景色の上に広がる、寒い冬晴れの昼下がり。
「甘い物は嫌いなのに、湧き出るようにチョコが現れる。思い出しても腹が立つ……」
「……腹が立つのは君だよ、サスケ。それはバレンタインのチョコじゃないのか。もしかしなくても」
ストーブの前に陣取った水月が忌々しげに舌打ちした。
「バレンタイン……」
眉を顰めてサスケが呟く。
「俺はてっきりアイツの嫌がらせかと思っていた」
「アイツって?またお兄さんの話?」
飽き飽きした様子で聞き返す水月の肩に、重吾が手を置いた。
「そんな言い方をするな。珍しくサスケが自分から普通に雑談する気になっているんだ。ここは生温かく見守るべきだぞ」
「生温かく?」
「生温かく」
面倒そうに聞き返した水月へ力強く頷いた重吾に、サスケが物凄く厭な顔をした。
「……余計な気を使うな。気持ち悪い」
「厭か?なら熱い目で見てやろう。俺の熱視線で火傷するなよ?」
「黙れ。いよいよ気持ち悪い」
サスケが眉を逆立ててピシャリと言った。
それで皆口を噤み、室がしんとなる。
放射冷却で凍った木立からピシッと幹が割れる音がする。ストーブの上で薬缶のお湯がシュンシュン沸き返って、盛んに白い湯気を上げているのが煩く感じる程に静かだ。
「…………アイツの仕業だと思っていたのだが」
沈黙を破って、またサスケが口を開いた。
「…話したいならいちいちプリプリしないでフツーに話しゃいいじゃん。メンドくさいなぁ」
「そういうところだぞ、サスケ」
水月と重吾に口々に言われたサスケは、フイッとふたりに背を向けて頑なな顔で窓の表を眺めた。
「俺は甘い物は嫌いだ」
「それさっき聞いた」
「話が進まないなら俺は鳥に餌をやりに行くがいいか?」
「…黙って聞けないのか、お前ら」
「生温かいのはヤなんだろ?」
「熱いのも気味が悪いのだろう?」
「いやだから、普通に聞けって言っているんだ、俺は」
「普通に話せって言ってるんだよ、ボクたちは」
水月の返しに重吾が重々しく頷き、サスケはふたりに背を向けたまま口をへの字に曲げた。