第39章 雪の降り積む ー路地裏イチャイチャin干柿鬼鮫&牡蠣殻磯辺ー
「…何ですか、干柿さんは私と話すとき、いつもハ虫類と話してるような気でいたんですか。それは知りませんでした。早速一発殴っていいですか?」
「殴っていいかなんて断りを入れている内は絶対私を殴り付けたり出来ませんよ。私は予告の上に殴られるのを待っている間抜けた小悪党じゃありませんのでね。危害を加えられるより加える側に常にスタンスを置いて、ヤるからには息の根を止める心積もりで暴力を楽しんでいるんです。そんな私が何か?」
「…いや、特に何も…」
「よろしい」
鬼鮫は牡蠣殻の顎に手をかけて顔を上向かせた。顎から頬に手を滑らせると、冷えた頬の感触が掌に心地好い。
「冷えてますね。…そろそろ失せてもいいですよ。私のせいで風邪を引かれたなんてことになったら迷惑ですからね」
「もう芯から冷えてますから手遅れなんじゃないかと思うんですよ」
頬に添えられた大きな手に我の小さな手を重ねて、牡蠣殻が小難しい顔で笑った。
「干柿さんこそ、風邪なんか引かないで下さいね。体を厭って健やかに新年をお迎え下さい。謹賀新年迎春慶祝」
「………何だってそう気の抜ける物言いばかりするんですかね、あなたは」
呆れた鬼鮫は危うく緩んだ笑顔を見せかけ、すんでのところでぐいっと口角を上げて歯を剥いた。いつもの笑い顔とも言えないような威嚇的な笑顔を作る。
「気の抜けること?ちょっと早めの新年の挨拶ですよ。路地裏なのが何ですが、新しい年を寿ごうという清清しい心意気の何処が気抜けなんです。失礼な」
「それなら先ず今年一年世話になったことに礼を尽くすのが道理でしょう」
「……言う程お世話になりましたっけ?」
「……言っちゃ何ですがね。出会ってからこっちあなたに世話をかけられなかったことなんかありませんよ。やることなすこと話すこと、悉く迷惑を被ってますからね、私は」
「?そんなに?」
「あなたの頭は一年中正月並みにお目出度いでしょう?それで人に迷惑がかからないとでも思ってるんですか?はぁ、お目出度い…」
「…あはは。そうか!よし、あちこち不覚になってももういいかな!やっぱり一発殴っとこう!」
「ほう。いいですよ。やってご覧なさい。但し前後不覚のその後は私の好きにさせて貰いますからね。後々グダグダ言うんじゃありませんよ」