第39章 雪の降り積む ー路地裏イチャイチャin干柿鬼鮫&牡蠣殻磯辺ー
「通じると思うのが間違いです。学習能力を学習しなさい」
「おお。難しいことをさらっと言い出しましたね。学習能力なんて本能みたいなもんなんですから、学習してもなかなか身に付きゃしませんよ」
「…あなたをどうしたらいいんでしょうねえ…」
抱き締めた体から僅かな熱が伝わって来る。たった一度交わった夜を思わせる幽くて希薄な牡蠣殻の熱。ほんの僅かな熱に煽られて、腹の底がじんわり熱を帯びる。
「どうするって、また死なすの息の根を止めるだのそういう話ですか?止して下さいよ。周りが華やいでる年の瀬に死にたくありません」
顔を顰めた牡蠣殻に鬼鮫も顔を顰める。
「情緒の欠落も学習能力と一緒で学習出来るもんじゃないんですかねぇ…」
「心掛けてはいますが進歩がないところをみるとそうかも知れません。残念ですが、そこは男らしく潔く諦めて下さい」
それでも以前よりはマシになりましたよ。
内心呟いても口には出さない。鬼鮫は溜め息を呑んで口角を下げた。
「近しい相手ともう少し情緒のあるやり取りをしたいと思うのに性別は関係ないと思いますがね」
「近しい?」
「近しくない?」
「近しい…と思いますよ。ええ、近しいですね。成る程、近しいです」
感心したように頻りと頷く牡蠣殻の頭の上に、鬼鮫の大きな手が包むようにのる。
「正直まだ本調子ではないでしょう」
「まあ、絶好調とは言い難いですね」
「絶好調なあなたなんか出会ってこの方ほとんど見たことがありませんよ」
初めて会った宿屋での牡蠣殻が一番健やかだった。
「人に心配ばかりかけるのはいい大人のすることではありません」
「それ、前にも言われましたね」
「早く大人になりなさい」
「一応いい歳の大人なんですがねぇ」
「歳をとれば大人になるってもんじゃありませんよ。私からすればあなたなんかてんで子供です」
「あはは。私からしても、貴方はある意味てんで子供ででででで…ッ!ち、力任せに髷を引っ張らないで下さい!取れる取れる髷取れる…ッ、ぃだだだだたッ、頭皮が死ぬ!止めて下さい!」
「安心しなさい。髷が取れても頭皮が死んでも、私のあなたに対する態度は一切変わりませんよ」
「そんな心配してるんじゃありません!痛いから止めてくれと言って…、あッ、ブチッて言った!今何かブチッて言った!何かもげたか抜けた!」