第39章 雪の降り積む ー路地裏イチャイチャin干柿鬼鮫&牡蠣殻磯辺ー
「随分寒がってますねぇ。それとも怠けてるんですか」
「どっちもですよ、勿論。私が怠けてるのは今に始まったことじゃありませんし、理想の生活は骨の髄まで勝手気儘な自給自足です」
「自給自足じゃさして怠けられないと思いますが」
「それも好きなら苦ではないでしょう。そもそも独居の自給自足であれば手前の口を養いさえすればいいし、食べたくなければ食べなければいい」
「晴耕雨読の良いとこ取りですか」
「晴耕雨読!そう言うと何だか高尚になりますねぇ。晴耕雨読。わあ、怠けてないみたい。いいですねぇ」
「何が面白いんですか、そんな生活」
「ふふ。面白い必要はないんですよ、満足出来れば。海と山に近い見晴らしのいい丘で好きなものに囲まれて暮らせたら寿命も伸びるだろうと思うのです」
「食べたくなきゃ食べないなんて生活で寿命が伸びる訳ないでしょう」
「何が幸いするか解らないのが世の常ですよ」
「何が災いするか解らないって言い回しもあったように思いますが」
「物事は明るい半面を見なけりゃいけません」
「現実から目を反らそうってことですか」
「だからそういうものの見方は止めろって話をしてんですよ。ネガティブな人だな」
「ニュートラルでネガティブ?」
「ニュートラルでネガティブ」
「私は日本人ですよ。カタカナ言葉で評価されたくありませんね」
「え?最近オーストラリアで増殖してビーチで人を襲っていると聞きましたが、まだ国籍を日本に置いてらっしゃったんですか」
「…それは増えすぎた鯨を狙った鮫がこの鯨ついでに人も襲っているというニュースでしょう。私の話じゃありませんよね?」
「まんま干柿さんの話かと思ってましたが違うんですか」
「全然違いますね。鰻と蛇くらい違います」
「それ、本人がどう言おうと傍目には大して違いませんよ」
「それはあなたがバカだからそう思うんです」
「はいはいはいはい。わかりましたよ。もういいです。バカは大人しく晴耕雨読の隠遁生活に入ります」
「そのまま苔の生えた仙人になりそうですね」
「茸の生えた山姥でも構いません」
「…あなたならどっちでも大差ないと思いますよ」
「ははは。…それ、決して誉めてらっしゃりませんよね?」
「私があなたを誉めるなんてことがあると思いますか?」
「成る程、納得しました」