第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「いいですよ、迎えに行きますよ。行くしかないじゃないですか。誰も行く気がないんじゃ…。もう何ですか、目覚めの悪い…」
牡蠣殻がやれやれと頭を掻いた。
「あらそう?うちのボンクラの為に悪いわね、牡蠣殻。後で余興に水着を着せてあげるわ。紙製だけど」
「いや、結構です。それより先にお帰り下さい。私は失せさえすれば宿まであっという間ですからお構い無く」
「場所間違えなきゃでしょ。大丈夫スか?疲れてんじゃねえの、牡蠣殻さん」
「心配ないですよ。行きなさい」
気遣わしげな藻裾に鬼鮫が言った。
「私が残りますから」
「でもアニさん。疲れきった牡蠣殻さんはどっと情が薄くなるよ。折角待ってても逆に置いてかれかねねぇ…」
「…汐田さん…あなた私をそんな目で見てるんですね…」
牡蠣殻が暗い目で藻裾を見る。藻裾は手を振って否定の格好をしながら、
「見てるも何も実際そうじゃないスかぁ。アタシも波平様もそれで何回も置いてけぼり食らってんだもん」
思い切り肯定した。
「…そんな事しました?」
眉根を寄せて首を捻る牡蠣殻に藻裾は腕組みしてふんぞり返る。
「してますよ!もう、だからさー、アタシが残るよ。アタシならへっぽこだけど一応失せれるから捜すのもちっとは助けられるしサ。アニさんは皆と先に行ったらいい…」
「お気遣いなく」
鬼鮫は素っ気ない。
「いいから行くぞ。いいってんだからいいんだよ」
デイダラが藻裾の袖を引っ張った。
「余計なお節介やかなくていんだ、うん」
「大丈夫かな、牡蠣殻さん。アニさん置き去りにして後で引っ叩かれなきゃいいけど…」
「そっちの心配かよ…。兎に角いんだって。行くぞホラ。置き去りにしたってしなくたって結局引っ叩かれるんだからよ、牡蠣殻は」
「あーね。ま、そりゃそうなんだけどサ」
振り向き振り向き、デイダラと一緒に藻裾が去る。
「いやー、誰が上げたんだか知んねぇけど、気ぃ効いてたよなぁ、あの花火」
飛段が頭の後ろで手を組んでタラタラ歩き出す。
「流石陽キャのやる事だな。リーバーと南に乾杯だ」
懐に大事に仕舞った餡この塊を確かめながら、イタチもそれに続く。
「あれは金がかかったろうな。裏の浜にそんな金持ちがいると知っていればそっちで屋台を開いたものを…」
屋台を引いた角都が残念そうに呟く。