第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「試してみろよ。案外イケるかも知れねぇぜ?」
「何がどうイケんだよ?錆びてみて良かったとか錆びんの癖になったわとか言い出すとでも思ってんのか、この俺が」
「いやー、コロ助だってドラえもんだって飯食うじゃん?気付いてねぇだけでオメェも食えんのかも知んねぇよ?」
「…生憎俺はそんな事にも気付かねぇ程馬鹿じゃねんだ。オメェと違ってよ」
連発で五、六、七発目。辺りが一際明るくなった。
「サソリが呑まないなら俺が貰おう」
イタチが宇治金時片手に進み出て角都からビールを受け取った。
「…聞くだけ無駄なのはわかっているが敢えて聞く。ーお前、かき氷をあてに酒を呑む気か」
厭ァな顔で尋ねた角都に、イタチは寸程の躊躇いもなく頷いた。
「夏はこれに限る」
「…上得意にこう言うのも何だが、俺はもうお前に餡は売らない事にした。俺には清寿軒の餡こが号泣しているのが聞こえるぞ。ついでに職人たちの無念の呻き声も聞こえる」
クーラーボックスに腰掛けてビールを呑みながら、角都が鹿爪らしく首を振る。イタチはそれを見下ろして端正な顔にアルカイックスマイルを浮かべた。
「それは老年性の難聴が原因の幻聴だろう。養生しろ、角爺」
「…誰が角爺か。糖尿病予備軍め。幾らリーダーの奢りでも、お前にはもうビールは出ないからな」
「ケチな事を言うな、角爺」
「…だから誰が角爺か。いい加減にしないとヒジキで窒息させるぞ、ネコ目イヌ亜目クマ下目イタチ科イタチ属の小動物め。ケチは許せても角爺は許さん。間違っても俺はお前の祖父ではない」
「ケチなのは認めるのか。潔い事だ」
ネコ目イヌ亜目クマ下目イタチ科イタチ属が最愛の弟を見るときに近い優しい目でケチな角爺を眺める。角都は気味悪げに立ち上がってイタチ属から離れた。
「その目は止めろ。月読より怖い。お前の弟が気の毒になって来た」
「ケチに同情されるサスケではない」
「ケチケチ煩えな。角都のケチは今始まったこっちゃねぇだろ」
木立ちを離れてメンバーの側まで来たサソリが呆れ顔で言った。
「ケチは生まれたときから死に腐れるまで角都を支える存在意義だものね」
三本目を呑みながら小南が茶々を入れる。濡れタオルで顔を冷やしていたペインが、痛そうにビールを煽って苦笑いした。