第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「………」
「…っ」
「…はんひょ…?」
何故かいきなりリーバーから口を掌で覆われた南。
予想外の展開である。木立ちがガサガサと鳴る。
リーバーが南の口を塞いでいるのは何故か。
更に項垂れているのも何故か。
「リーバーはんひょう」
口を塞がれたままの南がもう一度呼べば、やっとのことで項垂れていたリーバーが顔を上げた。
ほんのりと赤い顔を渋めて、南越しに何かを見ている。
「…視線がな」
やがてぼそりと呟かれた言葉に、ようやく事の状況に南も気付いた。
ついでに木立ちの出歯亀ふたりも気付いた。
離れた場所でバイキングを楽しむふたりの仲間らしい連中の姿が見えた。
各々手にアルコール類を持ち、豪勢な料理に齧り付いている。
多分あれも皆無料だろう。
その恵まれた人々が食い入るように、じぃっと穴が空きそうな程の視線を向けているのだ。
南とリーバー、ただ二人に。
「っ」
事態を察した南の顔にも朱色が差した。
可愛らしい。
何か弁解せねばと思ったらしい南が慌てて口を開いた。
「あ、あの…皆──」
「んッだよ!しねーのかよ!」
「へ?」
「チューだよチュー!しろよチュー!」
「するべきとこだったろー!今のは!」
「はんちょぉー!不甲斐ないっすよぉー!」
「…お前らな…」
やんやと煽る一同は茹で蛸のように赤い顔。
どう見ても悪酔いした面倒な連中でしかない。
「すっごい酔っ払ってる…」
「だな…」
「あれ、明日には二日酔いになってるパターンですよ」
「だな」
「それで全部すっからかんに忘れてるっていう…」
「だな。好都合だ」
「え?」
首を傾げて南がリーバーに向き直れば、リーバーの体が南からそっと離れる。
「俺の気持ちがバレずに済んだ」