第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「だから、凄く楽しいです」
南の健気な一言。
ペインとイタチの潜む木立ちが身悶えでガサガサ揺れた。
「…あんな事言われた事あるか?」
「あると思うか?…いい加減にしないと六道呼び出して水平線まで投げ飛ばさせるぞ」
「その場合お前が角太郎で俺を助けに来るんだろうな?」
「…その節はお世話になりました…」
「…そうか」
ふと男の口元が和らぐ。
「それなら俺にもわかる」
男の伸ばした手が、南の頭に触れた。
「確かに"格別"だ」
髪型を崩さぬようにと気遣うように頭を撫で動いていた手が、するりと滑り下りる。
「リーバー班長?」
「参った。格別過ぎて、目が離せないな」
「え、と…それは、その…褒めて、ます?」
「ああ」
おどおどとぎこちない声を発しながらも、迷わず頷くリーバーに南の頬がふにゃりと緩む。
「じゃあ、少しは女らしく見えました?」
「見える!見えるよ南ちゃん…ッ!」
両手を握り締めてペインが目をキラキラさせる。イタチがそんなペインから気味悪そうに一歩引いた。
「南が南ならリーバーもリーバーだな…。同じリーバーでもうちのリーバーとは大違い…」
「リーバーじゃねぇし!リーダーだし!全然別物だろ!?」
「………ああ。全く哀しいくらいに別物だな…」
「…何だよその目は」
「酷使し過ぎて視力の落ちた美しい目だが何か文句があるのか?」
「そういう事言ってんじゃないんだが」
「いいところなんだから黙っていろ。リーバーが男を見せるかどうかの瀬戸際だ」
「…お前も大概出歯亀だな…」
ペインが呆れ顔をしたそのとき。
「…ああ」
リーバーが頷いた。
「よし。よく言ったリーバー。それでこそ男だ!」
「うるさいぞペイン…あ…」
「うん?……おぉ…!」
リーバーの指の背が南の頬を撫で、艷やかな唇に微かに触れる。
南の黒い目がリーバーの透き通るようなグレーの瞳と重なった。
南の動きが止まる。
絶好調にいい雰囲気である。木立ちで息を潜めるふたりの動きも止まった。
不意にリーバーが南に覆いかぶさるように動いた。
これは…いよいよか?いよいよなのか!?
木立ちに緊張が走る。