第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「どうやって」
「…俺が聞きたい」
ペインが頭を抱えて俯き、イタチがクーラーボックスを見下ろして悲しげな顔をしたそのとき、角太郎がガクンと大きく傾いだ。
「また随分沖にいらしてましたねぇ」
舳先に牡蠣殻が現れた。生温かい風に巻き上げられた海水が飛沫いてイタチとペインに降り注ぐ。
「まあ見つかって良かった。よろしければ岸までお連れしますよ」
ペインの顔がガバと上がった。
「か…牡蠣殻…。助かった!この際お前でいい!是非岸までお連れしてくれ!」
「この際って事ないでしょう。いい加減気を悪くしますよ、私だって……あッ、止めろ!」
しがみついて来たペインから身を引いて危うく海に落ちそうになった牡蠣殻が、あわあわと腕を泳がせてどたんと船底に手と膝をついた。
「あ…あっぶな!あぶな!危ないじゃないですかペインさん!危うくミイラ取りがミイラになるところ…」
「ミイラでもゾンビでもいい!早く俺をパラソルのところへ連れて行ってくれ!」
「あらら…。ホントにパラソルが一番お好きなんですか。変わっていらっしゃられますね」
「牡蠣殻」
体を起こして手を払う牡蠣殻へイタチが静かに声をかけた。再びにじり寄って来そうな気配を漂わせるペインを用心深く見守りながら、牡蠣殻が生返事する。
「何ですか、イタチさん……ペインさん!いいから、来なくていいから!待て!ステイ!」
「牡蠣殻」
「だから何ですか、イタチさ……いやだからペインさん!来んなって!動くな!座ってて下さいよ!助けるから!連れてくから!」
「お前、餡こを持ってはいないか」
「やーめーろ!それ以上こっち来んな!ステイだってステ………は?……餡こ……?」
牡蠣殻がイタチを二度見する。
「そう。餡こだ」
奇麗な顔でこっくり頷いたイタチを、牡蠣殻はマジマジと凝視した。
「餡こってあの小豆の餡こですよね…?」
「そう。小豆の餡こだ」
「…申し訳ありませんが、生憎持ち合わせがありません」
「そうか。残念だな…」
「あの…つかぬ事をお伺いしますが…」
「何だ」
「小南さんに投げ飛ばされてやむを得なかったペインさんは兎も角、あなたはまた一体何だってこんなとこにいらっしゃるんです?どうやらまんまと潮に乗って流されたらしい事は置いておくとして、それにしてもこんな沖で何をしてるんですか」