第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「見ろ、これを!」
イタチが悲痛な顔でバカンと開けたクーラーボックスの中には、氷の塊と抹茶、練乳にタッパーに入った白玉が詰まっていた。
「配分を間違えたせいで餡だけがなくなってしまった…。俺とした事が何という不首尾、忸怩たる思いだ…ッ」
「…ああ。成る程ね…」
ペインの全身から心持ち色が抜けて白茶ける。
「…何が入っているのかと思えば…。お前、そろそろ本当に尿から糖が出るぞ…?」
「鬼鮫に言われ飽きた事だな。そんな都市伝説に惑わされる俺ではない」
「都市伝説っておい、イタチ。お前都市伝説が何だか分かってるのか?リーダー凄く心配だぞ。甘い物摂り過ぎたら糖尿病になるのは都市伝説じゃない。糖尿病は人面犬とか口裂け女とかとは違うんだ。お前の場合その若い身空で今そこにある危機なんだぞ。糖尿病なんか罹ったら最後、残りの人生何十年も甘物制限して生きて行かなきゃならないんだからな?」
「太く短くが俺の身上だ」
「それが細くて短くなっちゃうって言ってんだよ!好き放題してたらあちこち壊死したりして、手や足を切り落とす羽目になっちゃうんだぞ」
「…怖い話だな…」
「だろう?だから甘物は控えて…」
「流石は都市伝説。…派手に揺さぶりをかけて来る…」
「おいおいおいおいおいおい」
「ジブリとかディズニーとかしんちゃんにも都市伝説はあるんだぞ。都市伝説は守備範囲が広い。糖尿病とて例外ではない…」
「…へぇ…」
「因みに最近黒い外套の胡乱な化け物が出るという噂が巷に出回っている。赤い雲の飛んだ自意識過剰な揃いの衣装で、あちこちに出没しては人を襲ったり笑わせたりしているという…。これもまた都市伝説」
「……ソレもしかして俺たちの事じゃないのか?」
「?何で?」
「何で何でって思う訳?思いっ切り心当たりがあったりしないか?」
「他の連中は知らないが俺にはない」
「……どこからそんな自信が湧いて出るのかな、お前は…」
「…ふ。風に聞いてくれ…」
「………なあイタチ……。お前はあまり話さない方がイケてるぞ?」
「何故」
「何故、何故って聞くんだ?何となくわかるだろ?」
「さっぱりわからない」
「…じゃ風に聞けよ」