第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「馬鹿馬鹿しいっていいますけど、舟虫も鮫も貴方じゃないですか。気持ちはわかりますがそんな風に自分を悪し様に言うもんじゃありませんよ。もっと自信持って胸を張って下さい」
「…………」
「そんな凄い真顔で考え込まなくても大丈夫です。ミミズだってオケラだってアメンボだってみんなみんな生きているんです。友達ですよ。真っ赤に流れる僕の血潮ぃいいだだだッ」
「誰がミミズでオケラでアメンボですか。削りますよ。台湾かき氷並みに細かくふんわりと」
「ひだだ…またすぐ抓る…。台湾かき氷ですか?私、どちらかと言えば昔ながらのジャキジャキした日本式の杜撰なかき氷の方が好き……いったーッ!!!蹴りましたね!?弁慶の泣き所を蹴りましたね!?痛いんですよココ!!うぅぅ…」
「蹴ってませんよ。鮫肌で軽く打っただけです」
「ささささめ鮫肌で打った!?ああ道理で痛い筈ですよ!!大事な鮫肌で何してんですか貴方は!!」
「ホント何してやがんだ。やるなら弁慶の泣き所じゃねぇだろ。顔か首か心臓か、腹に風穴空けるってのもありだな」
陰気な声がして振り返ると、またもヒルコのサソリが尾に流木を巻き付けてズルズル引き摺りながら通りすがるところ。
牡蠣殻が屈めていた腰を伸ばして、サソリを呼び止めた。
「…あの、サソリさん?」
「あぁ?」
「さっきから何してらっしゃるんですか?生き逸れて海に家を立てようとしている人みたいになってますけど、もしかして本当にここに終の棲家を構える気でいらっしゃる?」
「俺が水平線に向かってラブアンドピースを叫ぶようなヤツに見えるか」
「いや、それはヒッピーに対する偏見…」
「ジョン・レノンもオノ・ヨーコも大嫌いだ」
「あの二人はあなたみたいに海辺のガラクタ小屋でラブアンドピースを叫んだりしてませんよ」
「…俺だってやらねぇよ。つくづく人の話が聞けねぇヤツだな、オメェ」
「聞いてますよ。ジョン・レノンとオノ・ヨーコが嫌いなんでしょう?」
「そうだけどそこじゃねぇだろ」
「うん?謎々ですか?」
「…オメェホントは途轍もなく頭が悪いんじゃねぇか?馬鹿どころの話じゃなくよ」
「途轍もない?それは一周りしてむしろ賢いと、そういう話でしょうか」
「一周りしたら元の馬鹿だ馬鹿タレ」
「じゃ半周だ」