第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「牡蠣はもう採られてしまってあまりないです。潜ってまで採りたくはないですよね?」
岩肌を仔細に調べていた牡蠣殻が残念そうに言う。
「来年、また来ましょうね。今度はもう少し早い時期に」
また顔を上げて笑う牡蠣殻と目を合わせ、鬼鮫は素っ気なく鼻を鳴らした。
「ならそれまでに泳げるようになりなさい。カナヅチと海へ来ても詰まりませんからねぇ…」
「簡単に言ってくれますね。しかし仰っしゃりたい事はわからないでもありませんから…頑張ります…。一応」
「実にあなたらしい誠意のない仰っしゃりようですねぇ」
「だってそんな簡単に泳げるようになるなんてないですって。今までだって努力はしたんですよ、それなりに」
「なら足りなかったんでしょう。そのそれなりの努力とやらが。安心しなさい。私がきっちり泳げるようにして差し上げますよ」
「え?干柿さんが?」
「何ですかその顔は。随分不満そうですね」
「いやー…鮫や舟虫にメタモルフォーゼしちゃうような人に泳ぎを教わるのは根幹が間違ってると思うんですが考え過ぎですか」
「考え過ぎですね」
「貴方口から水吐いて軽く海を造っちゃうような人ですよね?」
「それが何か?」
「…幾ら教わっても私にエラは出来ないと思うんですよ」
「…あなた何を教わるつもりでいるんですか」
「…干柿さんこそ何を教えて下さるつもりでいらっしゃるんですか」
「泳ぎ方ですよ、勿論」
「それは人型でも出来る泳ぎ方ですか」
「…どういう意味です」
「そのまんまですよ。私は舟虫にも鮫にもなれません」
「誰がなれと言いました」
「これから言うんでしょう?」
「…何で私がそんな馬鹿馬鹿しい事を言わなきゃならないんです。この暑いのにイライラする人ですねぇ…」