第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「大体なあ!!!」
「あん?」
「何だオメーのその水着!?何でタンクトップと短パンなんだよ!?そんなん普段着だろ!?海のフォーマルじゃねえだろぉ!?」
「……あん?」
「海に来たらば海の正装をしろと、デイダラはそう言ってるんだ」
焼き台の炭を落としながら角都が鹿爪らしく言った。
「…何だ何だ?何の話?」
呆気にとられてポカンとする藻裾の肩を飛段がバチンと叩いた。
「夏の海に来たならそれらしくしろって話だろぉがよ」
「それらしく?」
「そうね」
小南が、頭の天辺から足の先っぽまで、ジロジロと藻裾を眺めた。
「もう少し夏らしくしてもいいかしらね」
髪から抜いたハイビスカスを掌に載せて、ふうと息を吹きかける。赤い花弁の紙片が舞ってあれよあれよと言う間に藻裾を覆い隠した。
「ぅわッ…ぶ…ッ、何これ何コレ、ちょ、小南ねえさん!?」
「だはははははは!ビビってやんの!汐田、ビビってんぞ!わははははは!何だ、何かスゲー楽しくなってきたぞ、うん!?」
「…鬱屈しているな、テロリスト…。日頃余程の鬱憤を抱えているのだな」
「言ってやるなよ、角都。大体男ってな何だかんだで女の尻に敷かれるモンなんだからよォ」
「俺をリーダーと一緒にすんな!俺は絶対亭主関白派だかんな!」
「さだまさしか」
新しい炭を熾した角都が額の汗を拭って眉根を寄せる。
「うん?さだまさし?あー、さだ…まさし…?うん、まあ、そう、そうだ。さだまさしだ、うん」
「亭主関白宣言かァ?」
「あれは尻に敷かれる悲しい男の歌だぞ」
「は!?嵌めやがったな、うん!?大体亭主って何だソレ!誰が誰の!?金輪際ねぇよ、そんなん!」
「……男なんて馬鹿ばっかり」
うんざりしたように小南が腕を振る。紙吹雪が散り、名残りの花弁の巻く中に紅いビキニの藻裾が現れた。
「おー、いーじゃんいーじゃん。似合ってんじゃん。華やかだねぇ」
飛段が邪気なく笑った。
「やっぱ女の子はいいねー。男の褌姿なんかクソ食らえだ」
「裸参りをまだ根に持ってるのか?しつこいヤツだな」
「へえぇ。こういう水着も悪かねぇスね。思ったより動き易ィし」
屈伸したり、背筋を伸ばしたりしながら藻裾は満更でなさそうだ。
「よし、じゃデイダラ、動き易くなったとこでいっちょペインさん回収に行くか!沖まで遠泳しようぜ!」