第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「それはあなたが怖いからじゃないんですか」
まだデイダラと言い合っている角都に五百両払ってイカ焼きを受け取った鬼鮫が、傍らでムッツリしている牡蠣殻にそれを渡しながら半笑いで話に割り込んだ。
「あなたの為にパラソルを支えてるんでしょう」
「あら。差し出口なんかきいて、里帰りしてすっかり浮かれているようね、鬼鮫」
牡蠣殻の手からイカ焼きを取り上げて、小南は薄ーく笑った。二杯目のイカを噛み千切りながら、先程食べ終わったイカ焼きの串で鬼鮫の胸元を指す。
「ペインはパラソルが好きなのよ。私の次くらいに」
「…何を置いてもパラソルが二番に好きだとかそんな変な人に一番好かれて嬉しいですか。変わってますねぇ…」
六百両払ってまたイカ焼きを買った鬼鮫が鼻を鳴らす。突き出されたイカ焼きに牡蠣殻は厭な顔をして鼻に皺を寄せた。あまりイカは好かないらしい。これまたイカ焼きは小南の手に渡った。
「別に嬉しい事はないわね。でも好かれてしまうのは仕方ないのよ。仕方ない。美しさはギルティ…」
「…美しいかどうかは別にして、確かにあなたはギルティでしょうね。色んな意味で」
「鮫に言われたくないわね。エラ塞ぐわよ、ええゴラ?」
「言い合わなくても貴方たちは皆有罪で立派な犯罪者ですよ。大丈夫です」
また次のイカ焼きを買おうとした鬼鮫の腕をガシッと掴み、真顔で首を振りながら牡蠣殻が言う。
「ははは、大丈夫の使い方間違ってますぜ、牡蠣殻さーん」
笑って突っ込んだ藻裾の傍らでデイダラから口をへの字に腕組みした。
「イカ焼き買うなら俺によこせってんだよ。つうか何フツーにボッタクられてんだ、オメーはよ、鬼鮫!角都が調子にのんだろ!?うん!?」
「イカ焼きくらいで目くじら立てないで下さいよ。大体何でそんな貧乏なんですか、デイダラ。あなただってそれなりに稼いでると思いましたがねえ」
鬼鮫に呆れ顔をされてデイダラは胸を張った。
「入って来た金は使わねえと世の中が回んねぇからな。宵越しの銭は持たねぇんだ、俺は。うん」
「なら百両くらい惜しまないで買ったらどうです、イカを」
「世の中回すのは構わねえけど角都を儲けさせる気はねぇんだよ」
「…心が狭いんですねぇ…」
「うるせぇな!そんな人に言うくれぇ心が広いってんなら俺におごれよ、イカ焼きを!!!」