第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「んー、まぁジャシン教に入る入らねぇは今ァいんだよ。海まで来て無粋なこと言う気はねぇし」
「なら何だ。ゾンビパンダ」
「ゾンビパンダは余計だ。オメー、熱中症じゃねぇのかァ?」
言って、飛段はやおらペインの手の甲を抓りあげた。
「あだだだッ、何をする!」
パラソルを抱えていたペインの手が開いて、デカイ傘がバサーッと小南の上に倒れた。
「ひぃいッ」
ペインが肩をそそけて後退った。
「ひぃいじゃねぇよ。ほら、抓られたとこが戻んねぇじゃん。熱中症なりかけだァ、オメー」
呆れ顔の飛弾がパラソルを起こしかけたペインのアロハシャツの首を引っ張って、デカイ傘が再び小南の上に倒れる。
「水と塩摂れ、水と塩ォ。ぶっ倒れて死んじまうぞ」
「ぶっ倒れて死ぬ前に小南に殺されちゃうだろ!?何て事すんだ、お前はぁあッ!!!」
「だはは、どっちみち死んじゃうて事か?」
「…死にゃしないわよ」
パラソルの下から貞子ばりに這い出た小南が、飛弾を突き飛ばしてペインの襟首を奪い取った。
「水と塩なら腐る程あるだろがこのボンクラージュうぅぅぅうーーー!!!!」
小南の肩の上まで振りかぶられたペインが、ぶんっと空を切って飛んだ。
「…おおぅ」
角都の屋台で焼きイカの焼き上がるのを待っていたデイダラと藻裾が、揃って頭上を越えて沖へ飛び去るペインを目で追った。
限りなく水平線近くに水柱が立つ。
「…随分飛んだな…」
色良く焼き上がったイカを二人に渡しながら、角都が眩しげに目を眇めた。
「…帰って来れる距離なのか、あれは」
「生きてりゃ帰って来るわよ。私にも焼きイカ」
しわくちゃになったハイビスカスを付け直した小南が手を出したのに、角都が手を出し返す。
「五百両になります」
「…何よ。お金とるの?」
「当たり前だ。俺が伊達や酔狂でイカなんか焼くとでも思っているのか」
「違うの?」
「…メンバーを理解してないのにも程があるんじゃないか?」
「理解?何で?」
「…必要ないか。俺もお前らがサッパリわからん」
「でしょうね。いいからイカ」
「理解など微塵も要らんが金は要る。五百両になります」
「ペインにつけといて」
「生きて帰るかどうかもわからんヤツに誰が掛け売りなんかするか」
「仲間でしょ?」
「…いや、正直全然そういう感じじゃないな…」