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閑話休題?ーNARUTOー

第34章 薫風ーくんぷうー



「毒の花が食べられるんですか」

自分こそ人の話を聞いているんだかいないんだかわからない事を言って、干柿さんの目線が面白そうにまた私と針槐の間を行き交う。

「花蕾は食べ過ぎなければ毒じゃありませんよ。花蕾以外も一概に毒とは言い切れない。毒と薬は紙一重ですから」

そう答えると、鮫に似た不可思議な目は考え深げに色を沈めて瞬きした。

「私は本草に明るくはありませんが」

干柿さんが、思考の奥深くに心を置いている者特有の何処か上の空の声で言う。

「それは理に適った事のように思いますね」

針槐の葉、樹皮、豆果、種子は有毒。花房の甘い香りや数の多さは種の保存の本能なのだろう。だからその花や蕾も過剰に摂取すると中毒を起こす。藤も樹皮や莢、種子に有毒性がある。花蕾の過剰摂取で中毒するのも同じ。
種子をどう守るかには様々な形があるが、この二種の豆の樹は花の数と過剰摂取に依る中毒、他の部位の有毒性で樹そのものと種子を保存する。回りくどいようだが、長い進化の過程で様々な環境に順応した結果得た知恵、術なのだ。
それを追求して毒を薬に変えた人も、実際にはこうした植生と何ら変わりない。回りくどい道を経て様々な事を学んでいくのだ。生き物は須らく一見矛盾だらけの森羅万象の大海にあって必要と不必要を繰り返し、手探りで少しずつ進んで行く。
生死は儚いが時は悠久だ。その大海を生きて得たものを次代に繋ぐ本能は、生き物が儚さ故に持てる最大の知恵のように思う。ひとつひとつは些少で頼りない。けれどそれは、細くとも撚りがきつく、長い。

干柿さんがずっと掴んでいた手を放した。手首が涼しくなる。私のものか干柿さんのものか、微かに湿る汗の余韻。

暑いですか?

もし干柿さんが汗ばんでいたのなら涼しい場所に移るのがいいだろうと口を開きかけたらば、改めて手を掴まれた。
目を瞬かせる暇もなく、指先が花ごと囓られた。尖った歯が指を掠めて甘く匂う花を攫う。

「……美味しいですか?」

歯がなぞった指の痕にほんの僅か残る感触を意識しながら鮫の目を見れば、干柿さんは眉と片口を上げた。

「さあ?まあ、花ですね」

「そりゃ花でしょうね。花なんですから」

「こんなものを敢えて食べる必要などないように思いますがね」

「それを言ったら先程貴方が理に適うと言った事の意味が吹っ飛びますよ」

「そうなりますかね」
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