第31章 取り敢えず2018年もよろしくお願いします
「昼餉の支度をしに行くんですよ。素餐で良ければ干柿さんも如何ですか」
「あなたの素餐は本当に貧相そうですねぇ」
「厭ならいいんですよ。ご無理なさらずに、どうぞ」
「何を作るんです」
「揚げ出し豆腐です」
「…呑む気なんですか」
「大晦を寿ごうという私の心意気に何か?」
「何を言ってるんです。あなた暦なぞ関わりなく隙さえあれば呑んでるじゃないですか。心意気が聞いて呆れますよ」
「日々感謝して生きているのですよ。ライフイズビューティフル」
「酒呑みの常套句ですねぇ」
「様式美というヤツです。ワンダホーワールド」
「馬鹿言ってないで作るんなら早く作りなさい。付き合って差し上げますよ」
「…差し下げて下さって結構ですよ、別に」
「上げようが下げようがあなたにとやかく言われる筋合いはありません。燗をつけるんですか」
「冷やです」
「では私もそうしましょう。それにしても牡蠣殻さん、主食を省く食生活は感心しませんねぇ。炭水化物にはあなたに著しく欠けている集中力を補う働きがあるんですよ。まぁ今更心掛けて摂取したところで大勢に変わりないでしょうがね」
「いいんですよ。夜に年越し蕎麦を三杯は食べる気でいるんですから。血液サラッサラで集中力アップした牡蠣殻磯辺が2019年年明けを迎える手筈になってますからね」
「…一年すっ飛んでますよ」
「あれ?」
「どうしようもない」
「放っておいて下さい。蕎麦を五杯も食べれば西暦を間違う事もなくなります」
「…本当に偏った人ですね、あなたは」
「…食の好みで他人の人格を統括しないで下さいよ」
「ブリア・サヴァランはご存知ですか」
「ぅうわ、厭味ったらしい。豚の膀胱を外交の席に載せるチョンチョコリンな政治家が何ですって?膀胱に包んでまでして焼いた鶏肉を食べる程の食い気の持ち主を引き合いに出されてあれこれ言われる筋合いはありません。何やってんだ、あのフランス人は。同じ食われるにしても何で膀胱経由で胃に行かされなきゃないんです。思いがけない悲劇にも程があるでしょう。ベッシーだかベッキーだか知りませんがね、鶏の身にもなれってんですよ。鶏肉はとりわさに限ります」
「酒の宛みたいなものばかり好むのはどうかと思いますよ」
「…うるさいなあ」
「…何ですか?」