第31章 取り敢えず2018年もよろしくお願いします
風雪が激しく、表を眺める視界も定かでない。窓に貼り付いた氷雪が寒々しくて、見ているだけでも背中がそそける。
「冬の嵐ですねえ」
冷える窓辺でまともに眺め渡せない表を見ながら、鬼鮫が呟いた。
炬燵に入って本を読んでいた牡蠣殻は、眉間に深い皺を寄せたまま顔を上げた。
「爆弾低気圧が来てるそうですよ」
「そういうのを冬の嵐と言うんじゃないですか」
「そうですね。その呼び方の方が私も好きです」
鬼鮫の眉が上がる。
「別に好きとは言ってませんよ」
「違いました?改めなさるからお好きなのかと思いましたよ」
欠伸した口を掌で覆って牡蠣殻は本を閉じた。うんと伸びをすると、もう一度欠伸。
「お腹減りましたね」
「そう言えばそろそろ昼ですか」
鬼鮫は窓辺を離れて、炬燵に潜り込んで背中を丸めた牡蠣殻の横に割り込んだ。
「…ちょっと干柿さん…」
「何ですか」
「何で横に来るんです。炬燵は四角ですよ?残りの三辺に入って下さいませんか」
「何処に入ろうと私の自由でしょう」
「それを狭苦しくて敵わないと思うのも私の自由だと思いますがねぇ」
「あなたの自由なんかありませんよ」
「…言うと思いました」
「なら言わなきゃいいでしょう」
「何事も貴方に都合良く進行すると思ったら大間違いですよ。狭いからあっち行って下さい」
「あなたに指図される覚えはありません」
「…じゃ私が移りま…」
「誰が移動していいと言いました」
「…干柿さ…」
「話していいなんて言ってませんよ」
「…干が…」
「息を吸うのも控えなさい」
「死ぬんじゃないですか、ソレ」
「勝手に死んだら殺すと言ってるでしょう」
「…また情緒不安を起こしてるんですか?落ち着いて下さいよ。もうそろそろ思春期は過ぎてもいい頃ですよ?何時まで若者ぶってる気なんです、図々しい」
「あなたこそ眉間の皺がデフォルトになってきてますよ。年の程がわからなくなるから早く眼鏡を誂えなさい」
「貴方が一緒に誂えようと言うからこの様でいるんですが」
「ああ、そう言えばそんな事を言いましたね。そうですか、よく覚えていましたねぇ。あなたにしては珍しく律儀な」
「もういいですよ、ひとりで誂えますから」
言いながら立ち上がった牡蠣殻の腕を鬼鮫がガッチリ掴む。
「何処へ行くんです」